天使も踏むを恐れるところ

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2019/12/8 ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ

原題:Sicario: Day of the Soldado

(ネタバレあり)

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴが監督したSicario(ボーダーライン)の続編を視聴。

カルテルをテーマにした傑作クライムスリラーだった前作は元FBI捜査官でDEA特殊チームに引き抜かれたケイトの目を通してマット率いるDEAの軍の流儀と裏の流儀が渾然となった暗闘を描く構成だったけど、今作はアップデートされた犯罪情勢下でのDEAのブラックオプスを部外者、強いて言うなら被害者目線から描いた話だった。

前作で不死身の死の天使みたいなキャラ(ノーカントリーのハビエルバルデムとかヘルシングアーカードみたいな歩く死の概念そのもの)をバキバキに演じてたアレハンドロことベニチオデルトロは今回もマジで最高でデルトロ撃ちはSNSでちょっと流行ったのが記憶に新しい。敵対カルテルのチンピラがめちゃくちゃやったように見せかける目的の他に、アレハンドロの激情を冷静にコントロールして暴力に変える闘い方が出ててよかったと思いますアレ。というか顔撃たれても生きてて後始末のチンピラの車に手榴弾投げ込んで爆発したり凶手への一歩を踏み出そうとしたミゲルくんに地獄の底から引導を渡しに現れるあたりとか基本的に人ならざる者として描写してる節がある。

コロンビア系の組織がかなり潰されてエルチャポが何度目かの脱獄に失敗してクッソ厳重な刑務所にブチ込まれた今、あの辺のシノギでタイムリーなのが白い粉の密輸から密入国ビジネスに取って代わったのがリアルに感じた。まぁ昔からあったんだろうけど、トランプ政権で移民問題がクローズアップされてて世界中で不法移民が問題化しテロリストも混じって侵入してくるのは実際の報道でも取り上げられてるの見るし、その辺のかなり泥臭いシノギを本筋である麻薬カルテル間の内戦工作に持ってくる展開はマジで上手いなと。というかソマリアの海賊がイエメン人テロリストの乗るカルテルの移民船を襲わないよう金を貰ってたのを拷問で引き出すってのがよくわかるワールドワイド地獄絵図ちゅう感じでゾクゾクした。

作中ですぐ尻尾巻くアメリカ大統領とそれ以下はおそらく民主党政権が今も続いてたらこうなるでしょうねというifっぽいなと一瞬思った。まぁトランプを礼賛するとかそういう感じではなく、オバマ以前から我々は平和の為に戦うつってやってきたブラックオプスを暴露するというか真に迫って描く映画は時代の流れなんかなーと思ったり。

ゼロダークサーティもビンラディン殺害のBOの話でしたけどあれはドライな映画ながら若干ポジティブに描かれたところもある一方で今作は尻尾の巻き方もクソだし上の都合だけで襲撃されながら保護しようとしてた標的の少女と長年共闘した現場工作員(アレハンドロ)をマットに処分させようとしたのがまぁお役所って感じのアレでしたね。

そこで己が手を下すことを即断しつつ結局情に流されるような展開になるのがよい。

ドライな暴力の積み重ねみたいな映画なんだけど前作も含め、銃の弾込めやら武器の取り扱いの段階から暴力行使の仕方だけで背景となってる人間の心理(DEA/アレハンドロ/カルテル構成員)を描くのが本当に上手い。

メキシコ警察基本的に信頼度−2000%とかなんだけどまぁミゲルくんみたいにグレた身内がズルズルカルテルの構成員に引き込まれてる社会だと警官なんていかにエリートでも全員汚職してるんでしょうね。マフィアとの対決の姿勢示すだけで知事だろうと市長だろうとガンガン吊られる国だし。

あとヒロインがすごい。あまりにも麻薬王の娘感が凄まじい。親のこと罵られたら同級生の女の子の顔面に最高のパンチ入れるのカッコ良すぎた。

最後の騎士王のイザベラ役のイザベラモナーって18歳の女優なんですね。全然 メキシコ人じゃないことに驚きしかない。今作もイザベルレイエスって役名なのでこの辺はこだわりがあるんでしょうかね。とか書いてたら2019年の主演の役の名字がレイエスなんですけど引っ張られすぎでは。

 

メキシコの砂嵐と暴力と哀切で描かれる乾いたクライムスリラーで大変面白かったです。またマット・アレハンドロペア見たいけどこれ以上撮ると駄作になる気もしないでもないので普通にザ・カルテル映画化待ちます。いつになるんだアレ。

以上駄文失礼しました